アンバサダー

このサッカーをすれば、少し楽に生きられる
小説家 星野智幸

 路上生活者の写真を撮り続けている友人から、「ホームレスサッカー」の練習に参加しないか、と誘われたのはちょうど10年前の2010年でした。友人のライフワークを知りながら、それまで「ホームレス」とは関わりを持たなかったぼくを巻き込むため、友人はぼくのサッカー好きを利用したのでした。

 最初のうちは、少し緊張して参加しました。知らない人ばかりで、誰が当事者で誰がボランティアの参加者なのか、わかりません。

 でも、熱心にボールに食らいついていく負けず嫌いさんが、何人か印象に残りました。

 そのうちの一人は、前年のホームレス・ワールドカップ・ミラノ大会に出場した選手の佐々木さんでした。今はこのダイバーシティサッカーを支える中核の一人です。

 また一人は、現在「つくろい東京ファンド」を運営している稲葉剛さん(当時は「もやい」理事長)だと知りました。私にとって稲葉さんはいまだに、「サッカーをすると激しくボールを追い続ける人」です。

 お二人とも、今やぼくの友人です。気がつけば、ぼくの今の日常は、このときの出会いが広がった世界でできています。もし始まりがサッカーでなく、例えば支援活動を通じてだったら、みんなとの関係はどこか公式のもののままだったでしょう。写真家の友人のもくろみは成功しました。

 これがダイバーシティサッカーなのです。その場に立てば、社会的な立場は消える。今、自分で「当事者」と書いておきながら、ぼくはその言葉に違和感を覚えています。このサッカーを続けているうち、自分の感覚の中で、そのような区分けがわからなくなっていったので。

 参加者は皆、ただ一緒にサッカーをしている仲間です。そして、ホームレスサッカーからダイバーシティサッカーへと広げていく中で、みんなが、互いを「ただサッカーしている仲間」と感じられるような環境を、意識して作ってきたのです。

 コツは、標準はない、ってことでしょうか。誰かが、ハードルが高くて無理、と感じることがあれば、ルールを変更するなり、プレーのやり方を変えるなりして、ハードルではなくしていく。丸いボールでは速すぎて追いつけないと思うのなら、ボールを四角くしてみればいいのです。だから、完成はないし、常に途上にあることが価値だし、参加する人の数だけやり方がある、となればいいなと思います。

 何を綺麗ごとを、と思う人もいるかもしれません。安心してください、笑い話にはできない失敗もたくさんありました。仲間割れしたり、メンバーが消えたり、一人に過重な負担が行ってしまったり。もう続けるのは無理かも、と思ったことも何度かあります。それらはぼくの心にもいまだに痛むトゲとして刺さっています。

 そんなつまずきがあっても、続けてきたのは、やっぱりこのサッカーの場は、楽に生きられて楽しいから。みんなが楽であることは、最高に楽しいことなのです。息抜きにサッカーするんじゃありません。日常を生きている社会のほうを、ダイバーシティサッカーのようなあり方にしたいのです。

 このサッカーをもっと楽に、楽しくしていくために、ぜひ参加して知恵を分かち合いましょう! 特に、サッカーなんか自分には無理、と思っているあなたこそ!